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六年目の真実

初稿 2004年8月28日
改稿 2015年3月21日
400字詰め原稿用紙約37枚



※ このSSは遙が死ぬことが前提のストーリーとなっていますので、嫌悪感を感じる方は読まないことをお勧めします。

「待ってくれ、茜!」
 駅前を全力疾走する茜を見つけ、孝之は何としても追い付こうとしていた。
 でも、茜は元水泳部だ。帰宅部だった孝之とは体力の差があまりにもありすぎた。
 やがて、スクランブル交差点の赤信号に捕まったことも幸いして、孝之は茜にやっと追い付いた。
「どうして、ついてくるの? 私のことなんかほっといてよ!」
 捨てセリフを吐き、茜は赤信号でありながらも、走るタイミングを伺っていた。
 そして、車が来ない一瞬の隙をついて、茜はかけ出した。
 と、けたたまなく鳴るクラクション。その元は、ステップワゴン車。
「茜!」
 孝之が見た光景は、急スピードで突進する車に惹かれて、宙を舞う茜の姿だった。


「どうして、どうしてなんだよ!」
 どうしようもない気持ちに、孝之は苛立ちを感じていた。
 手術室にある待合室。孝之だけでなく、宗一郎も薫も無言でいる。
 茜は、事故の衝撃で心臓が破裂して、一刻の猶予も許さない状態だった。
 もし、自分が茜を追わなければ、こんなことにはならなかっただろう。遥に続いて茜も自分のせいで、こんなことに……
 ――どうして、こんな目に合うんだ? いったい俺が何をしたって言うんだ?
 孝之は、ずっと自分のことを責め続けていた。
 やがて、手術室のランプが消えて、執刀の医師が現れる。
「安心してください。手術は成功しました」
 安堵したように言う執刀医師に対し、孝之たちは疑念を抱いていた。
「手術って、どこの手術ですか? 心臓破裂だから、人工心臓を埋め込んだとかですか?」
 宗一郎が、先頭に立って聞いた。
「いえ、人工心臓でなく、心臓の移植手術です」
「え?」
 どういうことなのかわからずに、お互いをみつめた。
「あの、それはどういう……」
「香月先生の協力です。ドナー元は、守秘義務なので本当は言ってはいけないんですが、お姉さんの心臓が、茜さんのタイプと一致しましたので、優先的に使わせてもらったとそういうわけです」
「え?」
 孝之は、再度驚く。
「それって……」
「はい、ドナー元がどれだけ本人と一致するかで優先度が代わってきます。適合率が他の患者に比べて、ダントツに高かったです。血の繋がった姉妹だから、当然と言えば当然ですけど」
「そういうことですか」
 納得したように、宗一郎が答える。
「拒絶反応もありませんので、大丈夫ですよ」


「ということは、私の今動いている心臓は、姉さんのなんだね」
あれから、三ヶ月後。事故による後遺症もなく、茜は退院することができた。
「姉さん……」
 茜は愛おしそうに、自分の心臓に手を当ててみた。
 遙の臓器は、多くの人へと渡って行った。誰かの肝臓になり、脾臓になり、そして、角膜になって、遙は別の景色を見ていることだろう。
「ありがとう、姉さん。姉さんがくれたこの命、大事にするからね。お?」
「どうした?」
「今、私の心臓が『よかったね、茜』って言ってる気が……」
「それは遙の声だよ。心臓は第二の脳というくらい、前の、つまり遙の記憶を持ってるっていうしさ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、私が孝之のことを前よりもかっこよく見えるのって……」
「遙の記憶を茜が感じているから」
「だね。姉さんは死んでなんかいない。私の胸の中で生き続けているんだ。文字通りに」
「そうだな。俺もそう思うことにしよう」
 これから、孝之、茜、そして、二人の息子である慎二の三人は、遙の心臓に見守られながら、これからも幸せに暮らしていけるだろう。
 そばに遙がいることはまちがいないのだから。
 涼しい風が宮を通り抜け、遙かな方向へと流れて行った。

 六年目の真実 感動エンド

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あとがき
 ということで、一年以上も更新が止まったままですいません。
 10年間も未完になっていたのが、やっと完成しました。
 結局、遙は死んでしまって、胸の中に生き続けているということですが、当初の感想にあった「幸せで会って欲しい」になってるでしょうか。
  ちなみに、最後の文章は、最後なので「涼宮遙」で締めたかっただけです。
 深い意味はありません。
 もう一つのSFエンドのほうも読んで頂ければと思います。

 


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