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六年目の真実

初稿 2004年8月28日
改稿 2015年3月21日
400字詰め原稿用紙約34枚



※ このSSは遙が死ぬことが前提のストーリーとなっていますので、嫌悪感を感じる方は読まないことをお勧めします。

「鳴海くん」
 茜に言われたことにショックを受け、追いかけることもできずにいた。
 そんなところを宗一郎に呼び止められた。
「実は、今から君にあることを提案しようと思う。強制ではないから、どうするかは君自身で決めてほしい」
「覚悟はできています。だから、お願いします」
 宗一郎の提案に、孝之は即答で賛成した。

 それから、70年後。
 人類は、生活圏を火星に移しつつあった。先進国のほとんどの住人は、火星に移住し、そこで独自の文化や経済を築いている。
 といっても、火星は放射線が直接降り注ぎ、昼と夜の気温差が激しいため、ドームのような物で全体を覆っている。
 そして、ドームの外では、植物を植えて、環境を地球に近づけることも行っている。
 あと300年もあれば、ドームを取り外して、人類は生活できるだろう。
「この広大な土地は、あんたたちのために残すことにするよ」
 御年96歳になった茜お婆さんがつぶやいた。茜のいう「あんたたち」というのは、慎二の子供、茜から見て孫にあたる。
 外国のとある会社が冗談で始めた火星の土地を買えるというビジネス。実際に火星が開発させると、この土地の権利書を巡って、裁判が立て続けに起こった。
 結果は、火星の土地を買った人が勝訴した。そして、宗一郎もこの火星の土地を東京ドームの広さ程所有している。
 見渡す限りの平地に、ぽつんと佇む一軒家。広大な土地を所有できたのは嬉しいのだが、周りが静かだとどうも落ち着かない。
 そこで、宗一郎の研究施設を自分の領土内に移動した。既に、宗一郎も薫も亡くなり、研究は慎二が跡を引き継いだ。
 しかし、慎二も76歳。去年、現役を引退して、別の者に引き継がせた。
「そういえば、お母さん。いよいよ今日だよ」
 唐突に慎二が言った。
「何が」
「僕の本当の両親に再会できる日だよ」
 実は、慎二は茜の息子ではなく、孝之と遙の子供である。その両親に会えるということである。


 15年前、人工脳が開発され実用化された。これにより、脳死は事実上撲滅された。
 そして、70年前のあの日、宗一郎が提案したこと。それは、遙を脳死のまま冷凍保存することだった。未来で、脳死が治療できる時代まで冬眠するという方法だ。
 だが、遙一人だけ未来に取り残されるのは、あまりにも残酷である。そこで、宗一郎は孝之も一緒に冬眠しないかと持ちかけたのだ。
 そして、孝之は了承し、今は遙と同じように70年も眠り続けている。
 人工脳は開発されたものの、冬眠した人類を安全にかつ以前と同じように蘇らせるのに、さらに15年もかかってしまった。
 今のように様代わりした世界を見て、二人はどう思うだろう。
「実は一週間前にお母さんを先に目覚めさせて、脳死治療をして、今日退院という運びになりました。あの研究施設にいます。行きましょう」


「茜!」
「姉さん!」
 茜にとっては70年ぶり、遙にとっては、一日ぶりの再会だった。ただ、遙は31歳の女性であるが、茜は96歳のお婆さんである。
「お婆ちゃんになってても、こうして茜に生きている間に出会えてよかった」
「姉さん……」
 そして、横から初老の男性が近づいた。
「初めまして、ですね。お母さん」
「誰、ですか?」
「姉さんと孝之の息子」 
 茜がすかさず、詳しい説明を入れる。
「そうなんだ、そういうことが……名前は慎二なんだ。平くんと水月どうしているだろうな」
「平さんは99歳の誕生日をこの前祝ったところだけど、水月先輩は7年前に……」
「そう。ありがとう、茜。それでは」
 気を取り直して、遙が言った。
「紹介します。孝之くんです」
 部屋の奥から、孝之がゆっくりと歩いてきた。茜が喧嘩別れしたときの姿で。
「孝之……久しぶり」
「茜、すっかりお婆ちゃんになって.……」
 しばらく、遙と孝之、茜は70年ぶりに断章をして楽しんだ。


「ところで、二人はこれからどうするの?」
「え、それはもちろん、大学受験の勉強でもしようかと」
「ないよ、大学なんて。今はバーチャル・カレッジというパソコンからログインして、教授の講義を聞くスタイルだよ。多種多様のジャンルがあって、もちろん幼児心理学もあるし。ちなみに、受験も受験資格もなし。飛び級もできるからね」
「そ、そう……なんだ」
 明らかに変わってしまった世界に困惑している遙だった。
「それから、本は自然破壊になるからって、発行自体が禁止されて、ほとんどが電子配信されてる感じかな。出版社の編集人にあたる電子配信の配信人に会うことができるくらいか」
「え、ええと……どうしよう、孝之くん」
 すると、今まで黙っていた孝之が口を開いた。
「だったら、まずは柊町に行こう。あの日のデートのやり直しじゃないけど、これから少しずつ思い出を作っていけばいいじゃないかな。だから、俺も遙につきあったんだし」
「孝之くん……」
「そう言うだろうと思って、二人分の地球行きのチケット手配しておいたよ」
 横から茜が割って入る。
「ほら、早く行った行った。あと、このタブレットは電子財布だから、なくさないでよ!」
 こうして、孝之は遙と一緒に70年後の世界を生きることになった。

 六年目の真実 SFエンド


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あとがき
 
やっと、完成しました。ここまで長かったです。
 二つのエンディングなんて書くものじゃなかったですね。
 思えば、記念すべき一作目も二つのエンディングを書いていました。
 あのときは、バッドエンドトトゥルーエンドでしたが、今回は感動エンドとSFエンド。
 どちらが好きですか。遥か死んでも生きているというのと70年後の世界で蘇って生きるというもの。
 見様によっては、どちらもバッドエンドにしか見えないですが、個人的にはSFエンドがいいですね。

 最初と最後の君のぞSSはインタラクティブの分岐ということで、二つのエンディングを書くという自体になっています。
 さて、これでシリアスなSSは本当に終わります。

 まだ、もう一つの感動エンドを読んでいない方は、こちらもどうぞ。
 それでは、感想をよろしくお願いします。
 
 


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