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リンコと一緒の学園祭

初稿 2013年3月20日
400字詰め原稿用紙約50枚



※ 主人公の名前は、管理人がプレイしているときに使っている名前、桜井智樹(さくらいともき)となっています。
 なお、この名前は「そらのおとしもの」というコミック、アニメの主人公の名前です。

「トモ、ちょっと勝負していかない?」
 リンコは、子供のようにはしゃぎながら、その場所を指し示した。その表情は、かなり興奮している。
 こりゃ、新作の格ゲーが入荷したとかそういうことだろうな。
 オレの彼女、小早川凛子。かわいいかわいい オレの彼女。そのショートボブにしている髪型も、整ったかわいらしい顔立ちも、オレだけのもの。セーラー服の上からぶら下げているアイポッドも、ちょっとしたアクセントになっていて、個性的なセンスを感じる。
「ほらほら、早く早く」
 イヤホンを外した彼女は、オレの袖を無理矢理引っ張って、ゲーセンの中へと連れて行く。弱ったな、オレそんなに格ゲー強くないんだけど。
「ラッキー。ちょうど対戦型の席が空いてる。トモは、向こうの席座って。アタシはこっち」
「はいはい」
 無邪気にテンションの上がっているリンコは、まさに天使のようだった。その笑顔もかわいいのだ。
「ねぇ」
 向こうの席に行こうとしたオレを、リンコが呼び止める。
「せっかくだからさ、一回勝負で負けたほうが、明日一日何でも言うことを聞くということにしない?」
 明日といえば、我がとわの高校の学園祭初日。オレのクラスは、何のひねりもない風景写真の展示会なのに比べて、リンコのクラスは、メイド喫茶と来たものだ。これは、メイドリンコにご奉仕をたくさん受けられる絶好のチャンス。
「うん、いいよ」
 即効で答えたオレは、意気揚々と向こうの席へと向かった。
 格ゲーには自信ないけど、絶対に勝って、リンコとムフフな学園祭デートを満喫するんだ。
「よし、じゃあ行くよ!」
 リンコがコインを投入し、タイトル画面が表示される。オレの胸の高鳴りは、最高潮を向かえていた。


「あー、もう。どうしてよ! どうして、こんな肝心なときにスティックが壊れてんの!」
 結果は、3勝0敗とオレの圧勝。
 ゲームが開始されたのはいいものの、リンコのキャラは全く動く気配がなかった。それどころか「どうなってるの、ちょっとこれ!」とわめく声が聞こえている。
 様子がおかしいのはすぐにわかったので、彼女のキャラを攻撃するのは止めて、防御に徹した。でも、防御したつもりが、なぜか攻撃となって、少ダメージを与えていく。
 やがて、時間制限となって、オレの勝ち。そして、3勝0敗。何という後味の悪い勝ち方なんだろう。
「リ、リンコ。いいよ、今のナシで。オレもこんな勝ち方しても嬉しくないし」
 オレは、リンコをなだめることにした。だが、リンコは画面に表示されている「To Be Continued?」の文字を手早くカウントダウンさせて、0にしてしまった。キャラの断末魔が不気味に聞こえてくる。
 道理で、席が空いているわけだ。スティックを壊したのは、以前リンコに絡んでいたあの不良共じゃないよな。
 とりあえず、勝負やり直しってことだな。別の席を移ろうと思い、リンコに向き直った。
「トモ、命令言って!」
「え?」
「だから、命令言って。トモが勝ったんだから、アタシ何でも言うことを聞くよ?」
 いや、あの……
 いつものリンコだったら「今のナシ! もう一回!」とか言って、席を移動すると思っていたのに。
「あの……リンコさん、やり直しは?」
「無理だよ。このゲームがあるのここの台だけだし。まぁ、やり直しできないんじゃ、この席選んだアタシが悪いってことだから、アンタの勝ちになるの」
 そ、そんなのでいいんですか。負けず嫌いのリンコからは、想像できないセリフだった。
「でも、できるなら、優しい命令にしてね。そりゃ、アタシも彼氏の言うことは何でも聞きたいけど、物には限度というのがあるんだし。そこはわかってよね?」
 頬を赤らめて恥らうリンコ。か、かわいい。
 でも、具体的には何も考えてないんだよな。どうしようかな。
 よく考えてみれば、命令を出せるのは、明日だけなんだし、別に今日決めなくてもいいんだよな。
「じゃ、命令を言うぞ」
「う、うん」
 命令を聞いたリンコは、すぐに表情を変えた。
「こ、こんなことできるわけないでしょ! バカ!」
 あちゃー。怒らせちゃったかなぁ。
「今日はもう帰る! 明日は学園祭で忙しいんだから、早く帰って寝ないと、ね?」
「ああ、送っていくよ」
「いいよ、慣れている道なんだから」
 オレの忠告も聞かずに、リンコはそのまま逃げるように、その場から走り去ってしまった。
 まずい、こんな雰囲気で明日の学園祭は、一緒に見て回れるんだろうか。
 あとでフォローのメールを送信しておこう。


 翌日。
 朝早くからリンコに携帯で呼び出された。まだ朝の六時半だ。
「今、アンタの家の前まで来てるから、さっさと降りてきて。いや、降りてきてください」
 寝ぼけた状態で、電話を取った。今、リンコが敬語を使っていたような気がしたけど、気のせいか。
 いや、今日は、オレがリンコに好きな命令を出せる日だ。
 手早く制服に着替え、玄関前で待っているリンコと出会う。
「リンコお待た……」
 そこで言葉が止まってしまった。リンコの今の格好に驚いたからだ。
 水色を基調とした明るいワンピースに、フリルたっぷりのエプロン。ロングスカートからは、子供が使いそうなガーターベルトと絶対領域が覗いている。
 さらに、頭には真っ白いネコミミのついたヘッドドレス、スカートからは、細長く白い尻尾がはみ出ていた。
 つまり、リンコはネコミミメイドの格好で、待っていたのだ。
「昨日、トモが見たいって言ってたから、がんばっちゃった……」
 そう、昨夜は「リンコが朝から晩まで一日中メイドになってくれたらなぁ」とお願いしていたのだ。てっきり怒っているのかと思っていたら、まさか本当にやってくるとは……
「あまりジロジロ見ないでよね。恥ずかしいから」
 健気に笑顔を見せるリンコ。でも、頬が真っ赤に染まっていることから、いかにそれが、彼女にとっての冒険だったかがわかる。
 それに、時々側を通る通行人が、リンコのメイド姿をジロジロ見ては通り過ぎていく。ある意味、公開処刑に近いこの状況。この羞恥心にリンコはじっと耐えていたのもわかる。
「もしかして、家からこの格好で……」
「うん。お父さんからは不振がられたし、弟は『かわいい』って褒めてくれたし。それで、デジカメで何枚か撮られちゃったかな?」
 いや、そこは止めようよ。リンコのお父さん。
「ど、どうかな? に、似合ってる?」
 さっきよりも頬が真っ赤のリンコ。きっと、彼女の心臓はバクバクと極端な脈を打っていることだろう。
「あ、うん。すごくかわいいよ。思わず見惚れちゃったよ」
「ありがとうね、トモ。大好きだよ」
 満面の笑みのリンコがかわいかった。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうだね」
 リンコは、ふいにオレの腕に抱きついてきた。
「リンコ?」
「ご主人様、命令をください。許可なくこんなことをやってしまったメイドをお許しください 。罰として、みんなに私の恥ずかしいこのメイド姿を見られるというお仕置きを、甘んじて受けます」
 やけに棒読みが目立つ演技がかったリンコの声。これからの接客の練習でも兼ねているのか、やけに低姿勢で攻撃をしかけてくる。
「じゃ、学校に着くまでこのままで」
「うん……じゃなかった、かしこまりました、ご主人様」
 いつもの通学路。普段なら、途中でリンコが待っていてくれるのに、今日は家から彼女がいる。しかも、オレの腕に抱きついている。カレシとして、こんなにうれしい事はない。もちろん、オレは道路側を歩き、リンコと同じ歩幅に合わせる。そういう細かい配慮も忘れない。
 時々、彼女の顔を眺めながら優越感に浸ってみる。いつ見ても、リンコはかわいい。そして、フローラルティアラのシャンプーの香りが、オレの鼻をくすぐっていく。 女子高生特有のいい匂い。幸せを感じるこの瞬間。
 そして、会社へ行くサラリーマンや女子高生など、通行人がリンコの姿をジロジロと見ていく。リンコは、そのせいか頬が真っ赤なままでオレと目を合わせてもくれなかった。
 でも、これって、オレもリンコと一緒に、通行人から視姦されてるってことだよな。そう考えると、オレもリンコと同様、胸がだんだんと高まっていく。やはり、普段どおりのオレでも、他人からジロジロと見られるのは恥ずかしい。

「ねぇ」
 ふいに、リンコが話しかける。周りは通行人もいない脇道の路地。リンコも、ここでしか話せないんだろうなと考えていた。
「今日は、もしかしたら、トモにも喫茶店のヘルプやってもらうと思うよ。他の子が、部とかのほうにも行っちゃってて、人手が足りないんだよね。だから、これは命令でいい?」
 かわいらしく、オレの顔を覗き込んでくる。もちろん、リンコのお願いなら命令なんてなくても、手伝いに行くのは当たり前だ。
「いいよ。そういうことなら、喜んで手伝うから」
「ありがとう、トモ。テニス部とかクラスのほうは大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫」
 その点は問題ない。クラスでやるのは、風景写真の展示で、受付もいない一般開放という形式だ。部のほうも、高嶺と先輩、一年生 の何人かが中心となって動いている。こちらは、オリジナルスポーツドリンクを一杯百円で提供している。オリジナルというのは、ミキサーでお客さんが選んだ果物とスポーツドリンクを混ぜて出すという物だ。
「よかった。それじゃ、アタシのクラスまで、このまま手を繋いでいても問題ないよね?」
「え、大丈夫だけど」
「じゃ、このトモの手、アタシのクラスに着くまで、絶対に離さないから!」
 リンコが絡めていた手に力が入る。
「ええと……」
「さっきからずっと通行人に、アタシずっと見られてすごく恥ずかしいんだから。命令を聞く代わりに、トモもその道連れだよ。それに……」
 そこから先は小さな声なので、聞き取りずらい。
「え、何?」
「アンタと一緒にいたら、少しはこの恥ずかしさがやわらぐって言ってるの! やっぱり、トモが大好きだからかな。トモに触れていると、とても落ち着く……」
「リンコ……」 
 リンコの頬が赤いのは、さっきからは変わっていない。でも、彼女からこんな言葉を聞いた後に見る表情は、さっきとは違った魅力があった。
 恥ずかしいから頬が真っ赤になってるのではなく、恋する乙女だから見せる真っ赤な表情。
「ええと……そうだ、図書委員の仕事って、何かあったかな?」
 これ以上リンコを見つめていると、こっちも余計恥ずかしくなってくるので、別の話題を振ってみた。
「ないよ。学園祭の間、図書館は閉鎖しているから」
「そ、そうなの」
 ま、まずい。このドキドキをまぎらわせるような話題が見つからない。
 学校が近づくにつれて、オレの鼓動はだんだんと早くなっていった。


「おかえりなさいませ、リンコお嬢さま」
 リンコのクラスに着いた途端、メイド服の女子の一人が迎え入れてくれた。
「旦那さまが、下っ端リンコと一緒にお帰りになりました」
 手慣れた感じの接客である。それに、笑顔がかわいい。メイド服は、紺のロングスカートに白いエプロン。スカートからは、絶対領域が少し見えている。典型的なメイドさんスタイル。
「おはよう、葛城さん」
「おはよう、リンコ。あなたも、家からメイドで来るとは、さすが私のライバル、ですわ」
 リンコのクラスには、なぜか女子しかいなかった。見回して五、六人といったところだろう。メイド服の葛城さんに、あとは制服である。そして、リンコはまだ手を離してくれない。依然ぎゅっと握り締めたままだ。
 葛城さんの近くには、紙袋がある。
「 お見事ですわ、葛城さん。ところで、その紙袋はあなたの着替えかしら? 私、着替え持ってきてないから、帰りもメイド服なのですわ。ライバルを自称するなら、ここまで対抗して欲しいですわね」
 リンコも、葛城さんというメイドさんの口調を真似しながら、答える。
「ところで、その隣にいる男子は誰? もしかして、リンコのカレシとか?」
 カレシという言葉に反応したのか、制服姿の女子が一斉にこちらをふりむいた。オレ達に突き刺さる視線が痛い。
「やだ。小早川さんったら、カレシ連れてきてる」
「手なんか繋いじゃって、どういうつもり?」
「でも、小早川さんのカレシ、ちょっとかっこよくない?」
「何言ってるの? ブサ男でしょ、どう見ても!」
「もしかして、小早川さんがメイドなのは、カレシの趣味?」
「リンコ、メイドの分際でカレシを連れてくるなんて百億万光年早いですわよ。爆発しろ、このリア充が!」
 最後のセリフはいいとしても、明らかに他の女子は、好意的には思われていないようだ。どちらかというと、嫌味に近い視線。それに混じって聞こえてくるヒソヒソ話。女って怖いと思う瞬間だ。
 どうやら、オレの趣味でリンコがメイドさんになっていると思われているらしい。いや、本当はそうなんだけど。
「確かにリンコのカレシだけど、人手が足りないって言ってたでしょ。だから、ヘルプで連れてきたの」
「ふ〜ん」
 葛城さんは、品定めをするように、オレをじっと見つめている。全体を眺めた後、急に腕をつかまれた。
「ちょっと来て。リンコ、カレシ借りるよ」
 同時に、リンコと繋いでいた手が離れる。
「アンタ見込みあるよ。松沢さん、安井さん、それから、チカもナナミもちょっと来て、手伝って」
 葛城さんに連れて行かれたところは、教室のある階の女子トイレだった。


「どう、アタシの見込み通りだったでしょ?」
「うわ、似合いすぎ。超ウケる」
「かわいい。今すぐにでも抱きしめたいくらい」
「萌え〜」
「なんか嫉妬しちゃう。アタシよりもかわいいなんてありえないんだけど!」
「その割には、アンタ達、すごいノリノリだったじゃない?」
 トイレの鏡で全身を確認してみる。あの後、女子五人がかりで、化粧を施され、腰まで届く長さのウィッグを着けられ、制服からメイド服に着替えさせられた。当然、頭にはヘッドドレスもかぶせられている。
 どうやら、ヘルプというのは、皿洗いではなく、接客係のようだった。
「どうかな? 初めて着たメイド服は?」
「なんか、スカートがスースーするんですけど」
 マンガとかで、男子が女装してスカートを履くときに、スースーするという表現が出ているけど、本当にその通りだ。一言で言うと、パンツの先は何も履いていないような錯覚を覚えてしまう。常に意識していないと、スカートが丸見えになるんじゃないかと勘違いしてしまいそうな、そんな感覚。でも、着心地はとてもいい。
「大丈夫、大丈夫。さて、開店まで時間があるから、準備を手伝ってもらうからね!」
「でもさ、途中で嫌になって逃げ出したらどうするの?」
「大丈夫。服は隠しておいたから。だから、あなたは今日一日は、このメイド服姿でいること! これなら、逃げたくても逃げられないでしょ?」
 おいおい、話がどんどんとまずい方向に進んでる。女装してるだけでも恥ずかしいのに、今日一日はメイドって。オレオワタ。
 そして、オレは女子の集団に連れられ、リンコのクラスへと戻っていった。


「えっと、あの、どちらさん?」
 オレとお揃いのメイド服のリンコが、オレを見た最初に言った言葉がコレである。
「嘘、本当にトモなの? マジ? 超似合ってるじゃない! かわいい、かわいいよトモ!」
 リンコはかなり興奮している。でも、男のオレに「かわいい」は勘弁して欲しい。「かっこいい」とかならともかく、「かわいい」なんて屈辱以外の何物でもなかった。
「あ、ああ、ありがとう、リンコ!」
 体を震わせながらも、何とかリンコに向き直った。
「あと、これ名札ね」
 いつの間にか作られていたようだ。ピンクのハート型のプレートに、油性マジックで「とも」とひらがなで書かれている。周りには、手書きのたくさんのハートやら、「萌え萌えキュン!」、「ご主人様、だーいすき!」といったセリフが踊り、それらがかわいらしい丸文字でデコレーションされていた。
 オレは屈辱に耐えながらも、その名札をつける。こんな物まで着けて人前に出るなんて恥ずかしい。
 リンコのほうは、同じピンクのハート型プレートに「りん」とひらがなで書かれている。こちらは、変な落書きもなく、シンプルに名前だけ書かれていた。
 それから、テーブルを並べるのを手伝い、メニューを確認する。そういった時間を過ごし、いよいよ学園祭開催のときを迎えた。


 放送部の学園祭開催宣言と同時に、教室にもたくさんのお客さん……じゃなかった、ご主人様とお嬢様がやってくる。
「お、おかえりなさいませ、お嬢様」
 慣れない挨拶に戸惑う。デニーズでバイトやってるときとは、また違う緊張感だ。それに、女装している緊張感も合わさって、何ともいえない感覚が全身を包んでいく。
「トモ、ちょっとちょっと」
「どうしたんだ、リンコ?」
 裏で待機していたリンコに呼び止められる。
「あんたは声出さなくていいから、オーダーのフォローをお願い」
「え、でも、接客は?」
「そんな低い声で接客できるの?」
 リンコに言われて気づいた。そうだった。地声で「おかえりなさいませ、ご主人様」なんて言っても、キモいだけだ。
 だったら、裏声を使うしかない。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「九官鳥の声真似にしか聞こえないんだけど?」
 やっぱり、ダメですか。
「だから、ね? 一緒にメニュー作ろう。他の子は接客で忙しいし、それに……トモと片時も離れたくないんだから!」
「リンコ」
「それじゃ、これレシピ。コーヒーの入れ方とかは大丈夫だよね?」
「うん」
 まさか、こんなところで、デニーズのバイトの経験が役に立つとは。改めて、姉ヶ崎先輩には感謝しないとな。


 ようやく休憩に入った。
 しかし、よく七人でメイド喫茶を運営できたもんだ。厨房はオレとリンコの二人だけ。接客している娘も手伝ってくれたものの、正直忙しすぎて死にかけた。
「ごめんね、こんなことしてしまって」
「いいって、いいって。デニーズの経験もあるから、こういうのは任せといて」
「そうじゃなくて……メイド服のほう」
「え?」
 そういえば、今気がついた。女子に男の服を隠されているから、今日一日はこの姿でいないといけなかった。
 今まで忙しくて忘れていたけど、改めてみると、オレは女装したままだ。男だと思ってジロジロ見られているようにも感じてしまう。
 手を繋いだメイドさんが二人。学園内の廊下を歩いている姿は、珍しく見えるのか、好奇な視線が容赦なく降り注いでいて、正直恥ずかしい。恐らく、オレ達はカップルではなく、百合の関係に見られているだろう。
「ア、アタシ、トモの服を隠している場所知ってるよ?」
「そ、そうなの?」
「体育館の女子更衣室のロッカーだよ。でも、鍵はあの子が持ってるから……無理だね」
 無言で苦笑いしかできなかった。
 でも、もし、ここに鍵があったとしても、オレはメイド服を脱ぐだろうか。さっきまでの回転率を見た限りでは、オレが入ってギリギリである。だから、リンコが困っている以上、そのまま見捨てるわけにはいかなかった。なにせ、オレはリンコのカレシなんだから。
「キミ、かわいいね」
 突然、前にいた男二人が、オレに話しかけてきた。
「オレ達と一緒にどこか回ろうよ。トモちゃん。おごるから!」
 半ば強引に、オレの腕をつかんでくる。こいつら、学園祭によくいるナンパ野郎だ。しかも、名札を見たのだろう。オレの名前を馴れ馴れしく呼んでくる。
「ちょっと、あんたら。アタシの恋人に何するつもり。その汚らわしい手を放しなさい!」
 様子を見ていたリンコが、男二人の間に割って入ってくる。
「あん?」
「でも、キミもかわいいじゃない! オレ達二対二だし。リンちゃんも一緒に行こう!」
 もう一人のナンパ男は、リンコも誘い始めた。かなり強引な野郎だ。
「休憩、もう終わりなんです! それに」
 と同時に、顔をリンコにつかまれ、唇にやわらかい感触が伝わってくる。リンコは、オレにキスをしているようだ。
「ん、んん……」
 リンコは酔いしれているせいか、なかなか唇を放してくれない。でも、リンコの唇、やわらかくて気持ちいい。
 オレも、天国に行きかけたところで、唇が放され現実に戻される。改めて見てみると、ナンパ男二人が明らかに驚いた表情で、こちらを見つめている。
「アタシ達、こういう関係なの。わかったら、さっさと消えて!」
 納得したのか、ナンパ男二人は、この場を去っていった。「レズかよ!」、「調子狂っちまったじゃねぇか!」という捨てゼリフを吐きながら。
 それと同時に、いつの間にかできていた人だかりも、なくなりつつある。ということは、オレ達は公衆の面前でキスをしていたのか。
「だって、アタシのカレシ取られたくなかったんだもん!」
 頬を赤く染めながら、恥らうリンコがかわいい。そういえば、リンコとキスをするのって、彼女から告白去れて以来だから、今日で二回目か。
 リンコがキスをしてくれないのは、スキンシップが足りないのかな。
 そういうことを考えながら、オレはリンコの手を握り始める。
「アタシよりも、男のトモに声をかけるなんて……なんか、むかつく」
 オレにはわざと聞こえないように言ったつもりのリンコの独り言。実はちゃんと聞こえてはいるのだが、聞かなかったことにしておこう。


 そんなこんなで、ようやく一日目が終わった。
「今日は手伝って頂いて、本当にありがとうございました」
 女子たちは、お礼を言うと、オレの制服もちゃんと返してくれた。
 でも、学園祭はこれで終わりではない、二日目、三日目もあるのだ。
「ね、トモ。明日と明後日も手伝ってもらえないかな?」
「え?」
「トモが抜けてしまうと、明日と明後日もまたまずくなっちゃう」
 でも、オレはそれに答えようとせず、ただ首を横に振った。リンコは、最初はきょとんとしていたが、すぐにどういうことかわかった。彼女から自然と笑みがこぼれている。
「それじゃ、これ」
 渡されたのは、ふさふさした感触の三角形が二つついたカチューシャと、棒のような細長い物が一つ。
「明日はネコミミメイドをやるみたいだから、よろしくね!」
 笑顔でいうリンコに、オレはただ頷くだけだった。
 リンコと一緒にいられるのなら、こんな学園祭も悪くはないと。


 学園祭が終わってから、高峰がある写真を手渡した。
「後輩のコから聞いたんだけど、この前の学園祭で、女装したかわいいメイドさんがいたらしいよ」
 それがこの写真である。紛れもなく写っているのは、女装したオレだ。
「桜井くん……じゃないよね? 輪郭がとても似ているんだけど」
 す、鋭い。
「あのね、正直に答えて欲しいの。女装が悪いって言ってるんじゃなくて、桜井くん、学園祭のときに、部のスポーツドリンクの屋台さぼってたでしょ? 顧問の先生や先輩がカンカンに怒っていたよ!」
 え、そ、そうなのか。全員出席とかそんなのは聞いてないんだけど。
「それで、この女装したコの正体が、桜井くんだって言ったら、先生許してくれるよ」
「な、なんで?」
「なんでって。学園祭で一生懸命働いていたじゃない。先生方、極秘で『模範にしたい生徒』という項目を作っていて、このコが最新の調査で一位になってたの。しかも、ぶっちぎりで」
「ま、まじで?」
「だから、このコが桜井くんなら、正直に言おう? 顧問の先生や先輩と気まずい雰囲気で練習はしたくないでしょ?」
 確かにそれは避けたい。でも、無理矢理とはいえ、女装してたなんてこと、恥ずかしくて言えるはずもない。
「明日、部会があるから、その席で桜井くんが、みんなの前で謝ってもらえれば許すって言ってたよ。どうせなら、女装して部会に来たほうが、説得力があるからいいかもしれないね。私は強制しないけど……」
 そ、そうなんだ。でも、高峰がわざわざそんなことを言いに来たというのは、オレの処遇について、余程問題になってるんだろう。だったら、みんなの前で正体を明かしたほうがいいかもしれない。恥ずかしいといえば恥ずかしいけど、部活の雰囲気がまずくなるのは、嫌である。
 翌日、オレはリンコからメイド服を借りて、部会に望んだ。


 だまされた!
 大いにだまされた!
 部会に遅れて登場すると、みんなオレを見て大笑い。実は部の屋台は自由参加なので、顧問の先生も先輩も怒ってなどいないらしい。
 しかも、最初から女装した男子の正体はオレだとばれていたらしく、先輩がいたずらで、こんなドッキリを仕掛けたようだ。
 

―「ネコミミメイドリンコたん」 終―

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あとがき
 元々このネタは、オリジナルで書いていた「彼女がネコミミメイドになったら……」というのを流用しています。
 当初のネタ自体、途中で詰まってしまったので書いていませんが、リンコとの彼女と彼氏という関係ならいけるんじゃないかと思い、使ってみました。冒頭のネタといい、オチといい、当初のネタそのままです。
 恋愛ビギナーとして、現在リンコとラブラブ中ですが、書いていて恥ずかしかったですね。

 こんなリンコもたまにはいいかなと思いながら、愛でています。
 リンコかわいいよリンコ。リンコちゃん、マジリンコ。
 感想で何かあればお願いします。

 

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